移行計画に対する本投資法人の認識

本投資法人は2021-22年に、気候変動が事業にもたらすインパクトを特定するためTCFD提言に基づくシナリオ分析を実施し、事業上のリスクと機会を特定しました。シナリオ分析の結果、2030年に1.5℃シナリオ、4℃シナリオいずれも中程度の影響が想定され、影響の低減などの対応が必要と認識しています。
また、本投資法人はパリ協定を支持し、2050年ネットゼロ目標、2030年削減目標を策定、それぞれにつきSBTiによる承認を取得しています。2030年目標については、SBTiニアタームで要求されるスコープ1(S1)、スコープ2(S2)の直接排出分に加え、スコープ3(S3)のテナント排出部分のうち本投資法人が管理する部分まで含めた目標を設定、「OJR2030年目標」として計画的に対策を進め、達成を目指します。
ネットゼロにむけての対応は20年以上の長期にわたる取り組みであり、また本投資法人のみの努力では達成できないものも内在しています。そこで、「ネットゼロに向けての移行計画」として中長期の活動計画を策定し、期間を区切って対応していくものです。まずは2030年を中間点として、本投資法人が管理責任を有する部分を中心に、省エネ改修や再生可能エネルギーの導入などを主体的に進めていきます。2030年以降は、テナントを含むバリューチェーンへ働きかけ、協働しながら進めていく予定です。

ガバナンス

本投資法人のネットゼロに向けた気候関連課題への対応の責任は本資産運用会社の社長が担います。本資産運用会社では取締役・執行役員をメンバーとしたサステナビリティ委員会を設置しており、気候変動を含むESG課題について審議し、課題対応の結果報告を行っています。

リスクと機関の特定のシナリオ分析

TCFD提言に基づくシナリオ分析で2030年の収益影響を分析、1.5℃シナリオでは収益(営業利益)に対し年1~8%、4℃シナリオでは3%程度の影響と試算されました。

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リスク項目 4℃ 1.5℃
機会 顧客行動の変化
(環境性能のより高い物件の賃料上昇)
0億円 2.0億円
移行リスク 顧客行動の変化
(環境認証未取得物件の賃料収入下落)
0億円 12.6億円
顧客行動の変化
(認証取得率増加による賃料収入下落の一部回避)
0億円 2.1億円
炭素価格(炭素コスト) 0億円 6.1億円
炭素価格(削減目標達成による炭素税回避) 0億円 2.6億円
電力価格(電力価格の変動) 0.2億円 1.7億円
GHG排出規制への対応
(省エネ改修費用とグリーンリースによる電気代還元)
4.0億円 10.1億円
GHG排出規制への対応
(省エネ改修による光熱費削減)
2.5億円 6.4億円
物理的リスク 平均気温の上昇(空調コスト) 5.2億円 3.6億円
異常気象の激甚化(洪水被害) 1.3億円 0.4億円
以上気象の激甚化(台風被害) 0.1億円 0.1億円
異常気象の激甚化
(保険による洪水被害の補填)
0.7億円 0.3億円

本試算は本運用会社が、主要機関が提示する複数のシナリオを参考に設定したパラメータを基に、本投資法人の実績などを踏まえて想定した将来の影響額の試算であり、数値の正確性を保証するものではありません。また想定する対応策についても、影響試算上の想定であり、実行を計画・決定したものではありません。

2030年目標と2050年に向けたロードマップ

本投資法人の目標

パリ協定の目標達成に向け、2050年にネットゼロを目指すことを長期的目標として活動を進めています。

① 2050年に、バリューチェーン全体のGHG総排出量(スコープ1,2,3)を2021年比90%以上削減します。
→ SBTi SME版(中小企業対象)ネットゼロ目標として認定取得しました。

②「OJR2030年目標」として、2030年に、ポートフォリオのスコープ1、スコープ2、およびスコープ3カテゴリ13のうちOJRが管理権原を有する部分のGHG総排出量を、2021年比、42%削減します。
→ うち、スコープ1、スコープ2のGHG総排出量削減部分については、SBTi SME版(中小企業対象)ニアターム目標として認定を取得しました。

対応策について

省エネルギー・創エネルギー・再エネの導入を組み合わせ、事業の安定的な成長とネットゼロの両立を目指します。省エネについて、従前より取り組んでいる共用・専有部分のLED化および空調更新を中心に進めます。これらは、通常の定期修繕計画として対応しますが、専有部分のLED化はテナント入替時期をとらえて実施するため、内部留保を活用していきます。再エネ電力は、電力料金の変動や水道光熱費への影響をみながら、計画的に導入・拡大を進めます。計画に対し、不足が生じた場合は、非化石証書を利用する予定です。いずれも水道光熱費の予算管理の中で対応します。「OJR2030年目標」と連動したサステナビリティ・リンク・ローンの導入も進めています。これは本投資法人にとって目標達成のインセンティブになるのみならず、本投資法人の活動について金融機関からの理解・支援を得ることにつながるもので、サステナビリティファイナンスの普及拡大にも寄与するものです。

移行ロードマップ

図版
目標年度 OJR2030年目標(中期) 2050年目標(長期)
対象範囲 スコープ1、2およびスコープ3カテゴリ13のうちOJRが管理する部分 スコープ1、2、3(全て)
削減目標 42%削減
(資産規模拡大などによる年3%程度の排出量増加を考慮)
削減
寄与度
90%削減(資産規模拡大などによる年3%程度の排出量増加を考慮)
対応策
想定策
  • 省エネ、創エネによる削減(年平均1%)
22%
  • 省エネ、創エネによる削減(年平均1%) * 物件入替などによる効果含
  • 創エネによる削減(5%程度)
  • 再エネ電力、非化石証書による削減
    (OJR管理部門の再エネ導入率50%)
51%
  • 再エネ電力などによる削減
    (2040年にOJR管理部門の再エネ導入率100%)
  • 電力排出係数低下による削減(年3%程度)
27%
  • 電力以外のエネルギーの脱炭素化による削減
    (2035年移行徐々に進み、2050年90%削減と想定)
  • テナント管理部分も、再エネ導入による削減を10%程度想定
    (目標対象外部分)
  • テナントの対応による削減
    (対応が継続的に進み、2050年に90%再エネ化と想定)
  • サービス、資本財・廃棄物処理の脱炭素化による削減
    (2030年移行徐々に進み、2050年80%削減と想定)

創エネ・・・太陽光発電などにより自らエネルギーを創出する取り組み

指標と目標の進捗状況

「2050年ネットゼロ目標」の基準となるGHG総排出量(スコープ1、スコープ2、スコープ3は下図の全てが対象)は、2023年には基準年である2021年比4.2%の減少となりました。「OJR2030年目標」(スコープ1、スコープ2、スコープ3は右図のOJR管理カテゴリ13が対象)については、2023年には基準年である2021年比12.8%の削減となりました。再エネ導入による削減寄与が約4割、他に購入電力の排出係数低下も削減に寄与しています。「OJR2030年目標」のうちフロン由来の排出を除く部分は、サステナビリティ・リンク・ローンのSPT(目標)でもあり、資金調達にGHG削減の要素を取り入れることが「OJR2030年目標」の達成へのインセンティブとなります。グリーンビル認証取得や省エネ改修などへの投資は短期的にはコストとなりますが、中長期的な将来の収益に貢献するものと考え継続した投資を進めていきます。

図版
評価 単位 2021年 2022年 2023年 2030年目標
ロードマップ時想定 資産規模想定(年3%増想定) 億円 6,932 7,140 7,354 9,045
OJR2030年目標値 スコープ1,2,3(OJR管理部分) t-CO₂e 50,981 48,556 46,283 29,557
環境目標実績 GHG総排出量 t-CO₂e 105,472 107,497 100,988 -
OJR2030年目標
(S1,S2,S3 OJR管理部分)
t-CO₂e 50,961 50,148 44,463 -
基準年(2021年)比削減率 - 1.6% 12.8% 42%
再生可能エネルギー導入割合 2.8% 8.6% 12.2% 50%
グリーンビル認証取得割合(床面積ベース) 83% 84% 82% 80%以上
サステナブルファイナンス導入割合 4.9% 10.4% 21.1% 50%
財務実績 資産規模(取得価格ベース) 百万円 688,969 688,361 696,178

左表の財務指標は投資法人の
2期分の数値を合算したものです。

2021年(39期・40期)
2022年(41期・42期)
2023年(43期・44期)

営業利益 百万円 47,376 51,791 54,502
うちグリーンビル認証
取得割合物件からの収益
百万円 29,957 36,975 38,035
割合 63% 71% 70%
1口あたり分配金(円) 2期分 7,013 7,920 7,646
GHG総排出量原単位(対資産) t-CO₂e/百万円 0.2 0.2 0.1
GHG総排出量原単位(対収益) t-CO₂e/百万円 2.2 2.1 1.9

エネルギーの消費状況

2023年度は、昨年に続きコロナ禍からの回復により、エネルギー消費量が前年度に対して微増しました。しかし再生可能エネルギーを導⼊したことなどにより、GHG排出量は減少傾向です。
エネルギー消費量はGHGプロトコルに基づいて算出しています。

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図版

エンゲージメント

バリューチェーンエンゲージメント

2050年ネットゼロ目標達成にはバリューチェーン全体がネットゼロに向かうことが不可欠であり、本投資法人もPM・BMやテナントなどに対し働きかけを行うことで、各者の取り組みが進むよう、エンゲージメントを進めています。

  • PM・BM会社については、本投資法人の気候変動に対する取り組み姿勢や設定目標などをご理解いただき、環境関連データの報告や改修時の対応などが円滑に進むよう、定期的に説明会・勉強会を実施しています。
  • テナントについては、テナント管理部分への再生可能エネルギー導入の依頼・検討などを一部テナントつき実施しています。大部分のテナントとグリーンリースを締結し、サステナブルな取り組みを協働できる状況になっています。今後は、さらに本投資法人の取り組み姿勢をご理解いただくとともに、テナント側での取り組みニーズを伺いながら、協働して推進してまいります。
  • 投資主や金融機関の理解・支援も重要であり、気候変動含むサステナビリティに関する取り組み状況を、本レポートやIR関連資料、ホームページなどで開示しています。また、金融機関についてはサステナビリティファイナンスを通じてエンゲージメントを高めていきます。

ポリシーエンゲージメント

ネットゼロ社会の早期・確実な実現には、政府の方針・政策が重要な要素となります。本投資法人の移行ロードマップでも、電力の再エネ化推進、使用するエネルギーの脱炭素化、建設工事や廃棄物処理業の脱炭素化など、政策による牽引を期待する部分を含んでいます。本資産運用会社は、参加するイニシアティブの活動や提言を通じて、政府へのポリシーエンゲージメントを実施するとともに、関係省庁と個別に対話の機会も設けながら、ネットゼロ社会の実現に向けた働きかけを行っています。

(実績)

  • 環境省のシナリオ分析支援事業対象企業に選定。「気候関連リスク・機会をおり込むシナリオ分析実践ガイド2022年度版」にOJRのシナリオ分析事例が掲載(P95〜P103)
    https://www.env.go.jp/content/000120595.pdf
  • OAMが参加するPRI(責任投資原則)による「日本におけるネット・ゼロの実現」提言を通じた政策エンゲージメント
    https://www.unpri.org/download?ac=19676

その他の取り組みについてはこちらをご覧ください

リスク分析・評価手法の拡大

2050年にむけた移行を確実にするため、保有物件の移行リスクについては、引き続きCRREMを用いてCRREMのパスウェイとOJRのパフォーマンスとの整合性の継続的な評価を実施していきます。
さらに、物理リスク・移行リスクを合わせた気候変動リスク全体を分析するMSCI Real Assets Climate Value-at-Risk Portfolio Analysis model(ClimateVaR)を利用、ポートフォリオ全体のリスク状況、用途毎や個別物件のリスク状況を比較し、物件入替時の影響確認などに用いています。

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